耳鼻閑話  ( じ び か ん わ ) 

このページは、様々な話題を真偽の程はさておいて、耳鼻科にむりやり
結びつけて当院長が気の向くままに書き留めたものです。
気楽な読み物として楽しんでいただけたらと思います。

左右と耳鼻科
 いやがる子供たちを治療しているとしばしば目にとまることがあります。子供が顔を背ける
場合、ほとんどの子供たちはなぜか左に顔を背けようとします。人間の体は外見上左右対称
なので、顔を左に背ける場合と右に背ける場合は五分五分になるはずですが、なぜかそう
ならないのです。いやがる子供をよく注意して観察していると、顔だけではなくて肩や胸ごと
左に向こうとします。子供の肩や胸は一緒に診察椅子に座っているお母さんに押さえられて
いるため、せめて顔だけでも左に背けようとするのです。不思議なことです。

 これとは逆にほぼ常に顔や体の左側を相手に向ける動作があります。それは弓を射る動作
です。星座の射手座の絵からもわかるとおり、古今東西アフリカから南米に至るまで、弓を持つ
手は左手(弓手)、弦を引く手は右(妻手)と決まっています。攻撃を仕掛ける時は左胸を
張って威嚇し、怯んだり防御の姿勢をとる時は心臓を守ろうと本能的に左胸を引っ込める、
とも考えられます。心臓の位置が弓を射る動作におそらく影響したのでしょう。子供が
いやがる時に顔を背ける方向と関係があるかもしれません。

 ヒトの体は一見左右対称に見えますが、内部の作りが左右対称になっていない例が心臓以外
にも多々知られています。心臓は左についていますが心臓そのものも左右非対称です。それに
繋がる大血管も左右非対称になっています。大動脈も体の中心軸から左に寄っていますし、
食道や胃も左側に寄っています。右肺と左肺は形が違いますし、2つの主気管支も左右では
傾きが違っています。脳は形としては左右ほぼ対称ですが、右脳左脳という言葉がある通り、
機能的には左右非対称です。

 左右の声帯を動かす神経(反回神経)は頭の中から出て首を通ってのど仏まで降りてきます。
右側の神経はそのまま右声帯に繋がるのに対して、左側の神経はのど仏を通り過ぎて一旦胸の
中まで降り、さらに大動脈の下をくぐってから、再び首までもどってきてから左声帯に繋がる、
というややこしい経路をたどります。

 声帯を動かす神経が片方でも麻痺すると声がれが起きるのですが、風邪かなと思っていた軽い
声がれの原因が、破裂寸前の大動脈瘤だったということもあります。経路が長い分、声帯の
麻痺は右より左が多いことになります。左側の声帯が動いていない場合は、胸のレントゲン
写真や胸部CT、MRIを撮る必要があります。

 さて、バイノーラルビートという知覚現象があります。理科で習う”うなり”という物理的な
現象に似た知覚現象です。物理的な”うなり”は、わずかに周波数の違う2つの音(純音)を
同時に聴くと、周波数の差に応じた周期の強弱が聴こえるというものです。あたかも1つの音が
その周期で振動している様に感じます。”うなり”は純粋に音波の物理的な干渉現象で、数式と
して表すことができるものです。ですから、両耳で聴いても片耳だけで聴いても同じ”うなり”
が聴き取れます。

 一方、2つの音を左右に振り分けて、同時にイヤホンで聴いたらどうなるでしょうか。左右
別々に音が出ているので、音漏れしない限り音波の物理的な干渉は起こりえません。それでも
”うなり”ははっきり聴き取れるのです。左右の耳からの音の情報は、音の立体感や音源への
注意集中のために脳内で合成されます。それが”脳内うなり”を知覚する理由です。ただし、
音波の山谷に対する聴神経の追従性は、ヒトの可聴周波数の上限20000Hzからすると
あまり高くない(最高1000Hz程度)ので、バイノーラルビートが聞こえる2つの音の
周波数には上限があります。

 では耳の機能に左右差はあるのでしょうか? 脳には左脳と右脳があって、言語中枢は左脳に
あることが大半です。だからといって左耳から言葉を聞いたほうが右耳で聴くより話し言葉を
より良く理解できるというわけではありません。音の情報は脳内で何回か左右を行ったり来たり
するので、どちらの耳から入った言葉でも、言語中枢さえ傷んでいなけれは同じ様に聴き取れる
のです。

 鼻にも左右の機能に差はないと思われますが、ネーザルサイクルと言って、ある時間には右の
鼻が良く通り、別の時間には左の鼻が良く通るという風に、数時間の周期で良く通る側が交互に
入れ替わる現象があります。鼻粘膜は冷気や乾燥に弱いため、適度に休ませて過度の冷却や乾燥を
避ける意味があるのでしょう。

 鼻の真ん中の骨と軟骨と粘膜でできたしきり(鼻中隔)は誰でも多少は左右どちらかに曲がって
いることが多く、これが行き過ぎると鼻づまりや蓄膿の原因になります。ヒトの脳が進化で大きく
なった代償として、鼻が前へ突出するとともに鼻中隔が上下に押しつぶされた結果と考えられて
います。ヒトでは鼻中隔は右より左に曲がっていることが多いとされていますが、その理由は謎の
ままです。

 ちなみに院長は元々左利きですが、右手に矯正されたので筆記具や箸は右手で持ちます。
メスやハサミ、縫合針をつまむ器具などは左手で持つことが多いですが、右手で持つことも
あります。耳を覗く器具やピンセット、舌を押さえるヘラやのどに刺さった骨を抜く器具などは、
左手右手のどちらでも使えます。便利といえば便利です。でも、日常生活では左と右をよく
言い間違えます。患者さんの右は私から見て左側になるので、左側を右と言ってしまうのです。
患者さんの左右を絶対に間違えないようにと意識し続けた結果です。一種の職業病ですね...。

犬や猿と話せるようになる?
 皆さんは動物たちの食事が概して短時間で終わることをご存じでしょうか。例えば犬の
食事は基本的には丸呑みで、むせたり酸欠にならないかと心配になるほど休まず飲み込み
続け、ものの2,3分で終わってしまいます。でも心配ご無用、動物では食物は口と咽頭を
通り、空気は鼻と喉頭を通るようにできていて、食物や水を飲みこんでいる間も呼吸し
続けられるのです。

 動物では食物の通り道(咽頭)と空気の通り道(喉頭)は形態的にほぼ完全に分かれている
ため、嚥下のたびに息を止める必要がある人間とは違って、すばやく食物を平らげることが
できます。人間のように息継ぎを繰り返しながら食事をすると、時間がかかり過ぎて他の
動物に食物を先に食べられたり、自分自身が襲われたりする可能性が高くなるからです。
嚥下しながらでも呼吸ができるように、動物のノドは巧みに進化したのです。

 人間の咽頭は、機能的にみて上咽頭(鼻咽頭)・中咽頭(口腔咽頭)・下咽頭の3つに
分けることができます。中咽頭は直接口から見える、空気も食物も通過する部分です。
一方、動物の咽頭には上咽頭と下咽頭しかありません。簡単にいうと鼻の突き当たりから
直接喉頭に空気が流れる構造になっていて、食物と空気が交差する部分である中咽頭が
未発達なのです。

 この構造は、気管に食物が誤進入しないことにとても役立っています。人間の赤ちゃんは
この構造がまだ残っていて、母乳を飲み込みながらでも、むせたりすることなく呼吸が
できます。しかし成長とともに中咽頭が発達して喉頭が下降すると、このような芸当は不可能
となります。人間は動物よりもずっと誤嚥しやすい動物といえます。

 人間は道具や火を使用する知能を持ち、自分の体を守る術(すべ)を得られるように
なったため、自然界で無敵の存在となりました。食事中に天敵に襲われたり競合する他の
動物から食物を横取りされることも少なく、急いで食事を済ませる必要はなくなりました。
息継ぎのために食事にかかる時間が多少延びても、生存に不利とはならなくなったのです。

 ただ、まずいことに自分の体を守る術は、他者への攻撃のための術ともなります。人間の
顔面骨の形は、拳や棍棒で殴られた時に脳のダメージが最小になるように進化したという
説もあるくらい、人間同士の争いは絶えなかったといわれています(現在もです)。人間
自身が人間の天敵となってしまったのです。人間同士が殺し合っていては、種の繁栄は
得られません。そこで争いを平和的に解決するために、お互いの意志疎通が重要となります。

 動物は、身振りだけではなく声で仲間に何かを伝えます。鳥の美しい鳴き声は求愛を、
ライオンの咆哮は威嚇を、オオカミの遠吠えは、見えない仲間に自分の存在を知らせる
意味があります。動物を飼っている方ならおわかりでしょう。

 犬はいろいろな声色を使って、飼い主の気を引こうとします。逆に飼い主の言葉を聞き
分けて、お座り、お手、おかわり、伏せ、待て、おしっこ、うんち、などの指示に従います。
犬は自分の名前を聞くと飼い主でなくても振り向いたり近づいたりします。話者が違って
いても単語を理解できる知能を持っているといえます。これは猿でも同様です。
みみちゃん
 しかし、理解できる言葉であっても犬や猿は一言も話すことができません。犬の知能は
人間でいうと1~2歳児に相当するといわれています。人間の2歳児ならかなり話すことが
できますが、犬や猿が話せないのはノドの構造に人間と決定的な違いがあるからです。

 言葉を話すためには、声帯の振動で生じたブザーのような単純な音声が、咽頭や口腔の
形に応じて短時間に特定の振動数の音が強められたり弱められたり、こま切れにされたり
して大きく変化する必要があります。中咽頭がないと、声帯原音はあまり変化を受けない
まま喉頭から鼻に抜けてしまい、複雑な音声にすることができません。言葉を話すためには
音声が中咽頭を通って口腔へ抜けることが必須です。普段あまり意識はしていませんが、
言葉を話す際、人間の舌は激しく動いて声帯からの音声に修飾を加え続けているのです。

 動物は言葉で指示されたことを理解できますが、話すことができません。言葉の入り口
である耳や脳があっても、中咽頭が未発達なために動物では言葉の出口を持たないという
わけです。人間の乳児が言葉は分かっているのにうまく話せないのも、これに近い状態と
いえます。

 中咽頭が発達すればするほど、食物が喉頭から気管へ誤進入する可能性が高くなります。
また嘔吐したときに、胃酸が気管に流入して肺炎をおこす危険性も高まります。このような
リスクを冒してまで、話し言葉の獲得のために中咽頭は発達しました。そして言葉による
意志伝達が人間同士の争いを平和的に解決し、種として協調して繁栄するための大きな
飛躍となったに違いありません。嚥下や呼吸の不利を補って余りある話し言葉の獲得ために、
人間のみがあえて中咽頭を発達させたのではないでしょうか。

 さて、人間では誤嚥を防止するために、わざと中咽頭を縮めて喉頭を鼻の方へ引き上げる
手術が行われることがあります。逆に犬や猿で中咽頭を人工的に作成して喉頭を引き下げる
ような手術を行うと、片言でも言葉を話せるようになるのでしょうか。オウムや九官鳥は
人間とは全く違った発声法で流暢に話しますので、あながち夢物語ではないかもしれません。
院長は野生の猿(温泉に入るので有名)を撫でて思いきり睨まれた楽しい経験があります。
犬や猿に言葉で叱られるのはもっと楽しいかもしれません...。皆さんは真似しないで下さい。

 ちなみに嚥下の嚥という字は口偏に燕(ツバメ)と書きますが、英語のツバメという意味の
単語 swallow にも嚥下するという意味があるのは面白いですね。

反射のいろいろ
 反射神経という言葉は、一般に俊敏な動作(俗に言うところの運動神経)という意味で使われ
ますが、生物学的には反射というと、無意識あるいは意志に反して起こる刺激に対する反応、
という意味になります。反射を起こす一連の神経系(感覚神経→反射中枢→運動神経)は、反射
神経とは呼ばず反射弓と呼ばれます。人間の反射のうち、よく知られたものに膝蓋腱反射があり
ます。膝小僧のすぐ下を叩くと、下肢が跳ね上がる現象です。反射の中枢が脊髄なので脊髄反射
の一種とされています。もちろん、よく考えずに行動してしまうという意味でそう呼ばれるわけ
ではありません。

 耳鼻科に関係する首から上の反射では、絞扼(こうやく)反射(gag or pharyngeal reflex )
がよく知られています。のどや舌の付け根やのどちんこのあたりを刺激すると一瞬吐きそうになる
現象です。診察の邪魔になるやっかいな反射です。アーンして、と言うだけでこの反射が出て、
のどちんこすら見えない場合もあります。その一方で、この反射があまり出ない人も結構います。
高齢になるとのどが鈍感になり、絞扼反射は弱くなる傾向があります(逆に、誤嚥は増えますが)。

 次に多いのが咳嗽(がいそう)反射です。単なる咳のことですが、これが意外とくせ者です。
のど以外の様々な部分の刺激で出てしまう人がいます。診察のために耳垢を取ったり、鼻汁を吸い
取ったり、咽に鏡を入れたりするだけで強い咳が出て、観察や処置に支障が出る場合があります。
のど仏からの知覚を伝える神経が、耳や鼻の知覚も合わせて受け持っているため、耳や鼻が刺激
されると脳は喉も刺激されたと勘違いして咳が出てしまうのです。咽が痛いと耳まで痛く感じる
のと似ています。

 もう一つ、のどに関係して嚥下(えんげ、飲み下すこと)反射もあります。嚥下はその前半は
意識して行う動作ですが、後半は反射的に行われます。一旦飲み込み始めた動作を途中で中止
できないのはそのためです。時に嚥下反射が強くて、のど仏の近くまで内視鏡を進めると、この
反射が誘発されてのど仏が急にせり上がり、声帯などが内視鏡の先端に当たってむせ返ってしまう
ことがあります。飲み込まない様にお願いしても、必ず飲み込んでしまうので、困りものです。
時々入れ歯やPTP(錠剤やカプセル剤のシート)などを咽や食道に詰まらせた方が来られます。
嚥下反射が強過ぎる方なのでしょうか、あっと思った時にはもう遅かったのでしょう。

 鼻ではくしゃみ反射があります。コショウや花粉やウイルスや冷気などの刺激でくしゃみが
出るのはよく知られています。アレルギー性鼻炎の人の鼻は過敏になっていて、少しの刺激でも
くしゃみが連発しやすいので、鼻かぜとの区別に役立ちます。あまり知られていないくしゃみに、
強い光を見るとくしゃみが起こる光くしゃみ反射というものもあります。常染色体優性遺伝を
しますが、病気ではありません。何のためにあるのかよくわからない反射ですが、くしゃみの
時には必ず目を閉じてしまうのと関係があるかも知れません(目の保護?)。ちなみに私はこの
反射を子供の頃から持っています。

 反射かどうかよくわかりませんが、鼻に関して変わった現象があります。鼻の中を観察しよう
として器具を患者さんの鼻孔に差し入れると、無意識に患者さんの鼻の下が伸びてしまう現象
です。鼻の中が観察しにくくなるので、やらないようにお願いしても、何度やっても鼻の下が
伸びて困ります。鼻の中に異物(虫など)が侵入するのを防ぐ意味でもあるのでしょうか。
この現象が出る人は大人でも子供でもそう多くはないのですが、気のせいか女性より男性の方が
多いという印象です。鼻の下を伸ばすのは男と相場が決まっていますので。

 似たようなものに吸引などで鼻の中を刺激すると、息が止まる現象があります。赤ちゃんで
出やすい現象で、3歳位になると自然に消えてしまいます。鼻汁を長い時間吸引すると息が
止まり続け、あっぷあっぷして赤ちゃんが苦しがるので、時々息継ぎタイムが必要になります。
口でも息ができるのに鼻でしか息ができない、と赤ちゃんは思っているのでしょうか。この
現象は、羊水を吸入してはいけない胎児期では肺を保護する意味があり、そういう機能の名残
では、と私は考えています。この現象も反射かどうかよくわかりません。

 耳にも耳小骨筋反射というものがあります。大きな音が耳に入ると、耳小骨に付いている
小さな筋肉が反射的に収縮して鼓膜や耳小骨の振動を抑え、強過ぎる音が内耳に入らないように
して内耳を保護する反射です。この反射は鼓膜の振動のし易さをとらえる器械で測定できます。
表情筋を動かす神経(顔面神経)の一部が耳小骨筋反射に関わっているので、この反射を顔面
神経がマヒして顔が曲がった患者さんの重症度や治りやすさの判定に使えます。耳小骨筋反射が
消失している場合は、顔面神経マヒが治りにくいかも知れない、という予測が成り立ちます。

 瞬目反射は目を保護するための反射、立ち直り反射は転倒を避けるための反射、などの例から
しても、反射は不意の侵害刺激を瞬時に避けるためにあるもの、と言えそうです。耳鼻科医は
これらの反射と戦いながら、時には助けられながら日々の診療を行っているのです。

あべこべ動物
 体の中と外が裏返った架空の生き物というわけではなく、我々が毎日でも目にする生き物です。
何があべこべかといいますと、人間を含む脊椎動物とは、体のつくり(体制)のコンセプトが
真逆という意味です。生存のための戦略が正反対といってもよいでしょう。しかもそのおかげで
大繁栄している動物です。その動物とは節足動物です。

 実際に人間からみたあべこべ動物の代表で、太古から最も繁栄している節足動物の中の
最大グループ昆虫を例にとって、どこがどうあべこべなのか検証してみましょう。

 まず見た目の大きな違いとして、節足動物は体の表面が硬い骨格(外骨格)になっています。
軽く丈夫な中空構造で、外敵の攻撃から身を守る点では非常に有利ですが、成長するためには
何回も脱皮を繰り返す必要があります。脱皮の度に体が柔らかくなり、また移動もできなくなる
ので無防備な状態になります。

 次に節足動物は、一般的に脊椎動物よりも小型です。それには幾つかの理由があります。もし体を
大きくできたとしても、その時点で脱皮すると、安全に身を隠すことができなかったり、脱皮時に
体を支えきれず自重で体が潰れてしまうため、ゾウやクジラの様に大型化することはできません。
体の芯棒となる脊索や脊椎がなく(無脊椎動物)、これも体を大きくできない理由の一つです。

 さらに外見上の違いとして、目の構造があります。節足動物の目は小さな個眼が多数集まった
複眼となっており、大きなレンズ1個でできた我々ののカメラ眼とは全く異なるつくりです。
個眼のそれぞれが見ている像の画素(ドット)を構成する役割を持っています。個眼を半球状に
並べたものを頭部の左右に備えることで、極めて広い視野(ほぼ全方向)が得られます。そのため
背後の敵や餌に機敏に反応できます。その一方で、個眼の数に限りがあるのと個々のレンズが小さい
ため、詳しく見る力(分解能)や暗い場所での視力は犠牲になっています。視力が良いと考えられる
トンボでも個眼の数は2万個ほどで、その分解能は人間の中心視力には遠く及びません。

 細かく見てゆきますと、人間の口は上下に開きますが、節足動物の口は左右に開きます。
人間の歯は口の中ですが、節足動物の歯に相当するもの(大アゴ)は口の最も外側にあります。
節足動物の中枢神経系は脊椎動物と異なり背中側にあるのではなく、消化管よりもさらに腹側に
あり、附属肢により近くなっています。その中枢神経系も脊椎動物では体軸に沿って1本ですが
節足動物では2本あり、体節毎に神経節(脳)を持ちます。末梢からの情報は単一の脳で処理
されているのではなく、分散処理されています。このような体制は、素早い行動を絶え間なく
要求される昆虫の短い一生においては、有利に働くはずです。

 肉眼では確認しづらいのですが、呼吸器系も腹部の各体節毎に酸素の取り入れ口(気門)
またはエラがあり人間の様な鼻や太い気管を持っていません。昆虫では酸素の供給は
細い気管が直接末梢まで達して空気から組織への直接拡散作用でまかなわれます。糸よりも
細い気管で、しかも空気の能動的な出し入れはないので必ずしも呼吸の効率が良いとは言えません。
気管の中も脱皮をしなければならず、あまり気管を長く伸ばすと脱皮に失敗するおそれもあります。
これも体を大型化できない主な理由のひとつです。

 あべこべという程ではないですが、感覚器官でも我々人間と大きな違いがあります。
 昆虫は、空気が出入りする鼻を持ちません。では臭いはどこで感じるかというと
目立つ触角(アンテナ)です。触角には触覚(!)もありますが、主な機能は嗅覚と
フェロモン感覚です。聴覚を司る耳に相当する部位は前足の付け根などにあり、外から
確認できます。味覚は前足の先や触角で触れて感じているようです。平衡覚はどうでしょうか。
昆虫はたかだか十数グラムの体重しかないため、転倒や落下でもけがをしたり骨折することなく
すぐに立ち直ります。人間の内耳のような様な平衡器官は不要なのでしょう。俊敏に飛び回る
ハエやアブでは後翅が退縮した平均棍(へいきんこん)というものがあり、飛翔時のバランスを
保っています。

 このように我々人間を含む脊椎動物とは正反対の体制を持つ昆虫という節足動物が、ともに
地球上で最も繁栄したグループとなっているのは興味深いところです。

しゃっくりは無意味なもの?
 しゃっくり(吃逆きつぎゃく)を経験したことがない人はいないのではないでしょうか。
大学を出たての頃から院長はこの現象にどういう意味があるのか疑問に思っておりました。
犬や猫などの動物がしゃっくりをしたり、人間や動物の胎児もよくしゃっくりをすることから、
私はこれが決して横隔膜のけいれんなどではなく、胎児期の不随意運動が出生後に現れたもの
であり、本来必要不可欠なものではないかと最近は考えております。

 赤ちゃんは生まれると同時に力強く呼吸する必要があります。呼吸する力を強くしておく
ためには頻繁に横隔膜の筋肉を強く収縮させて横隔膜を鍛えておかなければなりません。
しかし、子宮内では呼吸の準備運動(深呼吸)をすると、羊水を肺に吸い込んでしまいます。
そこで声帯を閉じる運動と横隔膜の収縮を連動させて同時に行う(協同運動といいます)
ことで、羊水の吸引を防ぎながら呼吸筋(横隔膜筋)を鍛えているという訳です。

 しゃっくりが横隔膜のけいれんであるという説からは、なぜ横隔膜を動かす神経(横隔神経)
とは別の神経(迷走神経)の支配を受ける声帯が、同時に協調して”けいれん”を起こして
閉じるのか、説明がつきません。どちらの神経も脊髄を通らず脳から直接出てくる神経です。
脳内のどこかに両神経をつないで協同運動を起こすしくみが備わっていると考えた方が自然です。
こう考える耳鼻科の先生が他にもいらっしゃる様ですが、本当の所はよくわかっていません。

 出生直後の強い一呼吸で縮んでいた肺が拡張すると、しゃっくり運動は不要になります。
年齢が上がるにつれてしゃっくりの頻度は減ってゆきますが、たまにしゃっくりを起こす
脳の回路にスイッチが入ってしまうことがあります。これは不随意に起こるため不快に感じる
ことになります。吸気運動と声帯を閉じる運動が同時に急に起こるので、意図せず声帯が
振動して”ヒック”という音(声)が出て、なにやら恥ずかしい思いをします。

 時々しゃっくりの止め方を訊かれることがあります。三日続けば危ないという俗説もありますが、
誰にでも起こることなので、あえて止める必要はないかも知れません。個人的にはできるだけ強く
力を込めて息を詰めることで止められるのではないかと考えています。横隔膜の収縮にブレーキを
かける意味があると思います。お試し下さい。頭を逆さにして水を飲むのは鼻に逆流するおそれが
あるので耳鼻科的にはお勧めできません...。

人間は石(鉱物)からできている?
 無機的で静的な鉱物は、有機的で動的な生物とはまったく別物に見えます。ですから、人間を含め
生物は石(鉱物)からできている、と言うのはどだい無理があると思われるでしょう。しかし、かつて
地球は鉱物のかけら(小惑星)から生まれ、生物はその地球から生まれたわけですから、鉱物が生物を
生んだ、ともいえるわけで、両者に深い関係があっても不思議ではありません。そこで、まず生物の
体をつくる材料としての鉱物を見てみましょう。


 水(水素と酸素)は生物の体重の大半を占める重要な物質です。雨は空から降ってきますが、上空では
雪の結晶(天然の氷)であり、これはれっきとした天然の鉱物です(図鑑にも載っています)。また、
有機物に必須の炭素は、ダイアモンド(ダイヤモンドは誤り)や黒鉛(石墨)に代表されるように、
鉱物由来です。さらにタンパク質の重要な材料である窒素は大気中に多く存在していますが、もともとは
隕石中に窒素鉱物として含まれていたものです。

 骨や毛髪に含まれるリンや硫黄は、リン酸塩鉱物や硫化鉱物として鉱物界ではごくありふれたもの
として大量に存在します。人体の細胞外液の主な電解質であるナトリウムと塩素(食塩)は、内耳では
外リンパ液に含まれますが、その鉱物は岩塩(鉱物名はハライト)として、フランスなどの地下に大量に
存在します。

 一方、細胞内液の主要な電解質であるカリウムは、内耳では内リンパ液に含まれますが、カリ長石や
カリ岩塩(シルビン)という鉱物に含まれます。カルシウムやマグネシウムは石灰岩や苦灰岩(苦とは
苦みがあるマグネシウムのこと)に含まれています。

 鉄はヘモグロビンの重要な成分ですが、鉄鉱石や隕石に含まれていますし、地球の中心は鉄の塊と
なっています。ちなみに人間は体の中には約5gの鉄が溶け込んでいます。5g×60億人だと30万
トンにもなります。結構な量です。

   亜鉛、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、ホウ素 、フッ素、バナジウム、クロム、ヒ素、セレン、
モリブデン、ヨウ素などは生物にとって多すぎるとむしろ毒となる元素ですが、それぞれが主成分となる
鉱物がちゃんとあります(閃亜鉛鉱、斑銅鉱、閃マンガン鉱、紅砒ニッケル鉱、輝コバルト鉱、ホウ砂、
蛍石、バナジン鉛鉱、クロム鉄鉱、硫砒鉄鉱、硫セレン銀鉱、モリブデン鉛鉱、ヨウ化銀鉱)。

 亜鉛のサプリメントやバナジウムを含んだミネラルウォーターが売られてるのはご存じの通りです。
亜鉛は海にいるカキにたくさん含まれ、バナジウムはホヤに大量に含まれています。有毒にもかかわらず
植物ではなぜか鉛やヒ素などの土壌汚染がひどい場所に好んで生えるものがあり、鉱床や鉱脈を見つける
手がかりになります。

 アルミニウムやケイ素は鉱物界ではありふれた元素ですが、生物界ではあまり利用されていません。
私達の主食である稲にはオパール化した珪素がわずかに含まれており(オパールCTと呼ばれています)、
ほぼ私達は毎日オパールを食べていることになります。次に、生物が鉱物をつくる場合を考えてみましょう。


 人体にも鉱物を生む力が備わっています。石といえば、胆石や腎結石などの結石がまず思い浮かびます。
耳鼻科領域では唾石や扁桃結石ができます。石に近い硬いものとして骨や歯がありますが、それらは
リン酸アパタイト(炭酸燐灰石)という鉱物と有機物のコラーゲンが緻密に絡み合ったものです。
内耳では耳石が重力を感じるセンサーの上に乗っていて、これを顕微鏡で見るときれいな鉱物結晶が
観察できます。動物は総じてカルシウムを、植物は珪素を骨格の主な材料として利用しています。

 生物が死後に長い年月をかけて鉱物や岩石と化す場合は幾らでもあります。放散虫はチャートに、
サンゴや有孔虫は石灰岩に、ケイ藻は珪藻土に、樹木は石炭に(正確には結晶化していないので
鉱物とはいえませんが)、鳥の糞が燐灰石に、貝殻があられ石や方解石に、葦の根っこが褐鉄鉱に、
という具合です。

 石油は生物の遺骸由来とされていますが、液体なので鉱物ではありません。しかし、石油を閉じこめた
水晶という珍品があります。また、アメリカのニューヨーク州では、”ハーキマーダイヤモンド”と
呼ばれる非常に光輝の強い水晶を産します。これも黒っぽいタール状の有機物を伴っていますので、
水晶といえどもなにか生物との関わりを感じさせます。
カルパチア石
 さて、鉱物は無機物とほぼ相場が決まっていますが、例外があるのが世の常です。有機鉱物と呼ばれる
一群の鉱物があり、その中には生物由来と考えられているものがあります。その1つ、炭化水素の
カルパチア石(化学名コロネン)は、きれいなレモン黄色の結晶をしていて鉱物らしい見栄えですが、
立派な有機物の仲間です。砂糖は氷砂糖にみられる様に目でみてわかる程の結晶をしていますが、これは
人工の結晶なので、鉱物とはいえません。しかし、銅の鉱山中にできる胆礬(硫酸銅の自然結晶)は鉱物と
みなされています。もしサトウキビ畑が干ばつで枯れて、その中の砂糖分が天日で結晶化したら、
砂糖も有機鉱物の仲間入りを果たすことになります。


 このように考えますと、生物を構成している物質(元素)は絶えず生物界と鉱物界を行ったり来たり
しているように思えます。地球の地殻はできてから何回も更新されているので、うんと長い目でみると、
例えば火山から出てきた硫黄の一部は、恐竜の爪に含まれていたケラチンタンパクのS-S結合を構成していた
硫黄だったかもしれません。またサプリメントで飲んだビタミンB12(メコバラミン)の中のコバルト分
の一部は、奈良の大仏の銅鉱石を産出した長登鉱山の輝コバルト鉱由来だったかもしれない、というわけです。

 今やペットの遺灰をダイアモンドに変えるサービスもあるくらいです。人間の出したゴミの堆積が
人類滅亡後に地下に埋もれて、地球的タイムスケールの後で本当の”都市鉱山”に変わるかも知れません。
そこに生じているであろう鉱物の結晶を天然と呼ぶか、人工と呼ぶか、悩ましいところです...。


ミミ・ハナ・ノドの退化・痕跡器官
   動物の進化では、要らなくなった器官が別の目的に転用されることで、繁栄を遂げた例が
多々あります。例えば鰭(ひれ)が脚や翼へ、浮き袋が肺へ、鱗(うろこ)が歯や羽根へ、
汗腺が乳腺へと転用されました。さらに耳鼻科関連で挙げると、魚の側線器が内耳へ、
鰓(えら)が耳小骨や下顎骨や舌骨へ、嗅覚器官であった鼻が呼吸器官へと転用され、
それぞれ種の繁栄に大きく貢献しました。

 その一方で、進化の途上で運悪く転用されることなく、痕跡程度まで退化した器官が
あります。ヒトでよく知られているものでは、尾骨(俗に尾てい骨)、虫垂(俗に盲腸)、
瞬膜、立毛筋、智歯(俗に親知らず)、俗に第三の目と呼ばれる松果体(頭頂眼)などです。


 耳鼻科関連でも、痕跡器官や退化器官が幾つか知られています。耳では耳介(耳たぶ)を
動かす筋肉が数種あり、耳介を折り曲げることができる人もいるようです。音のする方向に
耳介を動かして素早く察知する必要があったころのなごりといえます。耳の手術の際、何の
躊躇もなく電気メスで切断されてしまう情けない筋肉です。

 また、集音器である耳介が尖っていたなごりがダーウィン結節とよばれるもので、外見上それが
認められない人でも指で触れば耳介の縁の小さな軟骨のしこりとして確認することができます。
もしヒトの耳が犬や猫の様に尖ったままだったら、まるで妖怪人間の様だったでしょう。


 鼻にも痕跡器官があります。鼻翼(小鼻)をヒクヒクさせる筋肉があります。激しい運動で
呼吸が荒くなる時に鼻孔を開いて楽に息ができるようにする働きがあったのでしょう(鼻翼呼吸)。
現代人では興奮した時や怒り心頭に発した時に多少動くに過ぎません(ちなみに院長は耳も鼻も
動かせます)。

 もう一つ、鼻の中では鼻の真ん中のしきり(鼻中隔)の前下方に鋤鼻器(じょびき、ヤコブソン
器官)と呼ばれる粘膜のくぼみがあります(下図)。患者さんの鼻を診察していると、時々見かける
ことがあります。この器官はフェロモン(特に性フェロモン)を感じる器官のなごりです。
ヒトでは胎児期には脳からの感覚神経がここまで届いていますが、やがて退化し、機能しない
状態で出生します。ヒトにもフェロモンがあるといわれていますが、鋤鼻機能が退化しているので
その作用は未解明のままです。ヒトではフェロモンの代わりに主に香水がその役割を担っていますが、
果たして性フェロモンには無意識に鼻の下を伸ばさせるような働きがあるのでしょうか。
ヤコブソン器官
 ヒトでは動物と比べ嗅覚自体も退化しています。警察犬や麻薬探知犬、災害救助犬が必要なのも
そのためです。嗅覚上皮や最上鼻甲介が縮小・退化しており、さらに直立二足歩行や脳の発達の
影響で鼻内が副鼻腔炎を起こしやすい形態となっていて、容易に嗅覚が失われます。動物であれば
死活問題ですが、ヒトでは食物の風味やガス漏れのにおいがわからなくて困る程度です(大阪ガスの
ぴこぴこがあれば助けてくれますが)。

 鼻は脳の増大のしわ寄せを受けながらも呼吸機能(加湿と加温)のための容積を確保しようと
顔の前方に突出したため、サルに比べて鼻がかなり高くなりました。寒冷地に適応した人種ほど
鼻が高いのはそのためでしょう。ヒトの鼻ではにおいやフェロモンによる情報伝達をほぼ放棄して、
呼吸機能のみを残したと言ってよいでしょう。放棄した部分はよく発達した視覚や聴覚の情報で
補っていることになります。


 口の中にも痕跡器官があります。先に述べた鋤鼻器に関連して、切歯管というものがあります。
上あごの前方で口と鼻をつなぐ骨と粘膜でできた管で、元は鋤鼻器とつながっていたものです。ヒトでは
骨の管は残っているものの、粘膜の管は退化してなくなっています。過去にはにおい物質やフェロモンを
含んだ空気の通り道であったのですが、鋤鼻器とともに退化してしまい、今では残念ながら切歯管のう胞
という病気のもとになっているだけです。

 口の中にはもう一つ退化したものがあります。誰でも子供の頃、上あごの硬い所(硬口蓋)に
ギザギザのヒダがあったのを覚えているでしょう。これは硬口蓋襞(または横口蓋襞)といって、
野生動物では捕らえた獲物をくわえて離さないための滑り止めとしての機能を持ちます。ヒトでは
小児期には比較的目立つものの、大人になると消失するか目立たなくなります。動物と違いヒトでは
暴れる小動物を丸呑み、なんてことはまずありません。そのため硬口蓋襞は無用のものとなり、
言葉を獲得するために舌の可動性を拡大させたのと引き替えに、退化していったのでしょう。


耳垢のホントの効用
 皆さんは耳垢が何のためにあるのか考えたことがあるでしょうか。目くそ鼻くそを嗤(わら)う
ではありませんが、ただの耳くそにすぎないのでしょうか。それとも何らかの必要があって作られて
いるものなのでしょうか。

 耳垢は体の他の部分の皮膚の垢とは異なり、外耳道という狭い筒状の皮膚に比較的多量に作られる
という特徴があります。ときには耳垢が詰まって聞こえが悪くなってしまうことがあるほどです。
音を集めるために耳介(耳たぶ)を発達させながら、その音の通過を邪魔する可能性があるものを、
わざわざ外耳道に貯め続けるのにはそれなりの理由があるはずです。


 ところで日々診療をしていますと、時々外耳道に異物が入った方が来られます。自然に入った
ものもあれば、人為的に入れらたものもあります。また無生物の場合も有生物の場合もあります。
有生物のうち最も多いものが昆虫で、小さな蛾や甲虫(こうちゅう)、ゴキブリなどが入り込みます。
暖かく暗く湿った環境が虫を誘ってしまう様です。頭部から潜り込んだ虫は前にしか進めないので、
鼓膜に突き当たって暴れたり鼓膜をかじったり(!)します。このため人は非常に痛い思いをします。
受診時には、既に虫は死んでいる場合が多いのですが、まだ生きていることもあります(下図)。
外耳道有生異物
 虫が耳に入るリスクは、虫の多い田舎ほど、また家の隙間が多いほど高くなります。さらに一階の
畳の間で布団を敷いて寝ている(頭が地表に近い)場合には特に高くなるようです。人間が住居を
持たなかった太古の時代には、その可能性はさらに高かったはずです。偶然入ってくる虫ばかりでなく、
もっと小さいダニやシラミなどの寄生虫も耳の中に住み着こうとするので、一層厄介だったことでしょう。


 音の受け入れ口である鼓膜は、十分に薄くしておかないとうまく音の震動を奥に伝えられません。
紙のように薄く破れやすい鼓膜を外力から保護するために外耳道ができたと考えられますが、逆に
これが虫の侵入経路や住みかとなっては困ります。そこで何らかの虫よけ対策が必要となります。

 まず物理的なバリアとして外耳道の入口部に毛を生やすという対策があります。ただし毛を生やし
過ぎると見た目が悪い(笑)ばかりではなく、ダニやシラミのたまり場になります。次のバリアとして、
耳垢で虫をブロックするという対策があります。東洋人の耳垢は例外的にパサパサと乾燥している
ことが多いのですが、欧米人や黒人はネバネバした耳垢(軟性耳垢)です。イヌ、ネコなどの動物も
軟性耳垢で、これが本来の耳垢の姿です。このネバネバがハエ取り紙の様に虫の羽や脚にからみついて
侵入を防いでいます。音は通すけれども虫は通さない、というわけです。


 実は外耳道には、アポクリン汗腺から派生した耳垢腺という分泌腺があって、ネバネバのもとを
分泌し続けています。その分泌物には細菌やカビの繁殖を抑える成分が含まれていて、容易に外耳炎に
ならないよう防いでいます。私は、さらに化学的バリアとして、何か虫が嫌うような成分(忌避物質)
も耳垢に含まれているのでは、と思っています(少なくとも野生動物では)。というのは、忌避物質を
出して虫の食害を防ぐ植物の例はたくさんありますし、野生動物は耳の穴をほじるという様な器用さを
持ち合わせてはいないので、耳の中に虫が入らないようにするのは人以上に切実な問題であり、植物と
同じ様に忌避物質を耳垢に含ませるのは良い虫除け対策と思われるからです(誰か調べてみて下さい)。


 以上のように考えますと、耳垢は必要があって作られているものなので、完全に取ってしまわない
ほうが良いのではと考えられます。耳そうじをやりすぎて外耳炎になった人は数知れませんし、
耳内をいつもきれいにしている人のほうがそうでない人に比べて虫に入られ易いという印象です。
ただ、鼓膜を観察しないといけない自身にとっては、その手前にある耳垢は邪魔物以外の何物でも
なく、やはり耳垢がないほうが取る手間が省けて助かるのですが...。


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